三軒茶屋の映画館 part2

前回予告どおり、再び降り立った三軒茶屋駅。自宅からだと、特急急行が止まらない中途半端な駅で乗換えて、さらにまた中途半端な路線で行くので、距離の割には時間がかかってしまう場所である。しかし東京に来て15年。三軒茶屋中央劇場>三軒茶屋のこの有名映画館をチェックしていなかったとは、映画好きとしてはうかつだったと思う。
商店街の細い路地の角に、昭和的建築。現在は2番館だが、建物の上には「特選映画封切場」、横には「各社封切」の看板。クリーム色の外壁には、なぜか、男の水色カッパ、女のピンクカッパが楽しそうに踊っていて(下の絵は、ぜんぜん似ていません…)、2匹の間には「映画は中劇」の文字。
味わいのある小さなカウンターのついたチケット売り場があったが、ここはカーテンが引かれ、使われてないらしい。チケットは劇場内の券売機で買うシステムだった。先日の三軒茶屋シネマより、ちょびっと近代的である。「幻影師アイゼンハイム」「夜になるまえに」の2本立てで1300円。
入るとすぐロビー。ロビーの片隅では、スタッフが真剣な様子で次回映画の看板を手書きしていた。トイレを探すと、「婦人洗面所」「殿方洗面所」。これもベニヤ板に手書き。なんか良いわ~。
館内は、コンクリートのゆるやかに傾斜がついた床に、赤いシートが並んでいる。三軒茶屋シネマより、ちょっと広め。スクリーンには、赤いビロードの幕が、ゆるやかなドレープをつくりながら下がっていて、両端や上の方に、金文字で「なんとか料理、映画館出てスグ」とか、「何とか不動産」とか、宣伝が書いてある。スクリーン舞台の両脇に、控えめに次回上映のポスター。「近日上映」という赤い文字は、今はあまり見なくなった映画館独特の角張った字体である。後で分かったことだが、この中央劇場は、そのレトロさから映画ロケなどでもよく使われるらしい。もう歴史的建造物の域に入っているような気がする。
でも、昔の映画館と違うと思ったのは、先日の三軒茶屋シネマも三軒茶屋中央劇場も、施設は古いが、掃除が行き届いていて、小綺麗なことだ。トイレも清潔だった。確かに、シートの快適さは新しい映画館には及ばないし、女性のなかには、こういうテイストは好まない人がいるかなぁと思う。でも、私はそうした古さが嫌だとは感じなかった。手書きの看板もそうだけれど、行き届いた掃除、食べ物は売らない(中劇はドリンクだけ、三茶シネマはおやつちょっととドリンク)、サービス券(三茶シネマだけ)など、客に足を運んでもらい、快適に映画を観てもらうための経営努力に感心したぐらいだ。
私が子供の頃に行った地元映画館は、たばこの吸い殻、ジュース館やお菓子のくずが落ちていて、汚かった。映画館のトイレなんて、臭くて入りたくなかったし。映画産業が衰退していたにもかかわらず、80年代はミニシアターが、90年代後半以降はシネコンがつぎつぎとオープンした。減少した観客は、シートがふかふかで、床には絨毯が敷いてあるこれらの綺麗な映画館に流れ、旧来の映画館はどんどん潰れた。私の地元でも、ミニシアターができてから、古い映画館が数年の間に一気に潰れ、そのミニシアターが潰れた映画館を買取って、経営を拡大していった。つまり、問題は施設の古さではなくて、旧来の映画館が、三軒茶屋の映画館のように客に来てもらうための努力をしてなかったのではないかと、ふっと思った。
「幻影師アイゼンハイム」は、好きな俳優エドワード・ノートンを久しぶりに見たという以外は、どうでもいい作品だった…。買い物もしたかったので、本当は「幻影師アイゼンハイム」1本だけで帰るつもりだった。しかし、あまりにも、もの足りなくて、こんなんで帰れるか~と、次の「夜になるまえに」も観ることにした。「ノーカントリー」のおかっぱ頭ハビエルが主役という以外は、予備知識全くなし。これでつまらなかったら、どうしようと思ったが、まずまず見応えある作品だった。観て良かった~。
映画が終わったのが16時近く。買い物はできなかったけれど(明日着ていく仕事服がないよー)、久しぶりに充実した休日だった。また、行きたいな、三軒茶屋のレトロ映画館。↓カッパに見えん…。
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