11月の映画鑑賞メモ

11月は見たなー。

山川元『東京原発』,2002年,日本,DVD
予言映画かと思ってしまったよ。コメディながら、原発問題について真面目に議論され、また「東京に原発を作る」、「大地震が起きる」、そういう危機が身に迫るまで、他人事でしかない人間の愚かさもえぐり出す。東京の人、ぜひ、見てほしい。役所広司は、こういうコケティッシュな役柄の方が似合うと思う。

長谷川和彦『太陽を盗んだ男』,1979年,日本,DVD
社会派であり娯楽作。原爆を作ったはいいが、何を要求したいか分からない。主人公は、そんな人間ばかり蔓延した世界をぶっこわしたかったんだろうな。時代の空気を感じる映画。デカダンと沢田研二の雰囲気がぴったり。池上希実子の演技がイラッとする以外はすべて良い。

ジャン・ヴァン・ドルマル『ミスター・ノーバディ』,2009,フランス,DVD
めくるめくパラレルワールドを美しい映像で描く。この監督のテーマは人生賛歌。全体的にちょっと平板なのが残念だけど、私は好き。命には限りがあり、時間は戻らない。選択をしなおすことも、偶然をなかったことにすることもできないのだ。様々な選択、偶然が絡み合い、幾通りもの人生の可能性が生まれけれど、わたしたちはそのなかのたった一つの人生を生きている。だからどんな失敗人生でも愛おしい。

キャサリン・ビグロー『ハート・ロッカー』,2009,アメリカ,wowwow録画
「戦争は麻薬である」。冒頭にでる字幕がこの映画のすべて。2004年バクダッド、爆弾処理班。戦争をどう思うかなんてことはいっさい排除して、死と隣り合わせで爆弾処理する兵士の精神的高揚だけをひたすら描いていく。穏やかな家庭ではなく、戦場でしか生きている充実感を得られない主人公。それはそれで、何か壊れてしまっている。また、ありとあらゆるところに仕掛けられた爆弾テロの手口(究極は人間爆弾)、これが日常茶飯事であることにショック。アカデミー賞作品賞、女性初の監督賞受賞。
よく知られた話であるが、キャサリン・ピグロー監督は、ジェームズ・キャメロン監督の元妻。この年、アカデミー賞はジェームズ・キャメロン『アバター』と騒がれたが…てんで勝負になってないじゃん。だれが見ても、制作費1500万ドルの低予算映画『ハート・ロッカー』>>>>>制作費2億3700万円の超大作『アバター』。

黒木和雄『父と暮らせば』,2004,日本,NHKBS録画
原作・井上ひさし。敗戦から3年後の広島。生き残った罪悪感から幸せになってはいけないと思う娘と、そんな娘が心配で出てきた父の幽霊の物語。原爆の惨状はもちろんだが、生き残ったものにも未来を封印してしまうほどの苦悩ももたらした。娘は原爆で生き残った人たちの声、父は死んだ人たちの声。希望を持てない娘と、希望を持ってほしい父。忘れたい娘と、伝えて欲しい父。出演者はほぼ二人、宮沢りえ、原田芳雄がとても良い。黒木和雄はある時から、戦争下に生きる庶民をテーマとした映画を撮るようになった。もっと見たい監督。

ドルトン・トランボ『ジョニーは戦場へ行った』,1971,アメリカ,DVD
こういう切り口の反戦映画はほかにない。戦争に行く前と、戦場から去った後のみで、戦場シーンはほとんどなし。しかし、どんな戦争映画よりも、嫌というほど戦争の悲惨さ、非人間性、虚しさがせまってくる。そして、それ以上に考えさせられるのが人間の尊厳。
トランボは、1939年にこの原作を書くものの、発禁処分に。戦後は彼自身が赤狩りで映画界から追放され、71年にようやくこの作品を監督した。赤狩り追放時代、偽名で『ローマの休日』の脚本を執筆したことは有名な話。ローマの休日の原題が『Holiday in Roma』ではなく『Roman Holiday』であるところに、彼の赤狩り批判、思想が込められていると言われている。

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