4月の映画鑑賞メモ

エルマンノ・オルミ『聖なる酔っ払いの伝説』,1989年,イタリア=フランス,某サイト
某動画サイトでやっと見ることができた。良い映画は音も画質も悪くても、画面がちっこくても、引き込まれてしまう。寓話的な映画。主人公の転落した理由ははっきり語られないけど、よく分かる。意思が弱くて、人が良く騙されやすくて、優しくて、こんなことしちゃダメだと分かっていても、いっつも貧乏くじを引いてしまう。彼の友人や知り合いは、みんなうまいことやっているのにな。でも、神様はそういう不器用な人を優しく見守っている。彼ほどは転落してないけど、今の自分をどうなんだろ…と思ってる私まで救われた気持ちになったさ。
主人公は、ブレードランナーで有名ななルトガー・ハウアー。悪役のイメージが強かったが、この映画を見て気づいた。彼はとても優しい目をしている。レプリカントから酔っ払いへの華麗なる変身↓。

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ビリー・ワイルダー『深夜の告白』,1944年,アメリカ,wowow録画
フィルムノワールの古典的傑作と言われる。無駄がなく、よく練られたシナリオ。後半、犯行後から、共犯者フィリスの隠された本性がボロボロと明らかになってきて、主人公ネフが冷静さを装いながらも心理的にも切羽詰まっていく過程にどきどき。フィリス演じたバーバラ・スタンウィックのファムファタールっぷり!。こんな悪女の登場は、ハリウッド史では画期的だったのでは?。

若松孝二『キャタピラー』,2010年,日本,wowow録画
軍神の妻という世間体、手足を失っても妻への支配欲が強い夫への愛憎、孤独、あきらめ…人間の欲や感情の揺れのなかに、戦争がもたらす悲劇をひしひし感じる。日本の戦争映画は、特に男女の描き方においては美しい悲劇にしてしまう薄っぺらな描写がおおいなかで、とても生々しさを感じる。それは寺島しのぶの演技があってこそ。でも最後が良くない。最後に戦死者○名とか、だめ押しのような反戦メッセージを付け加え、さらにエンドクレジットで元ちとせの『死んだ女の子』という反戦ソングを流す。とたんに、あの生々しい余韻がかき消されてしまって、戦争はダメ!という一般論になってしまう。最後まで夫婦というミクロ視点に徹して欲しかったな。私は無音か、ラストシーンの蝉の鳴き声だけをバックにエンドクレジット流した方が良かったんじゃないかしらんと思う。

荒戸源次郎『赤目四十八滝心中未遂』,2003年,日本,DVD
キャタピラーと同じ寺島しのぶ&大西信満コンビ。今まで見た日本映画のなかでも印象に残る。町の風景、生島が関わっていく裏社会の人物たち。これらをシーンをつないでいくだけで、掃きだめのような世界がリアルに迫ってきて、映画に引き込まれる。後半の綾ちゃんと生島の道行きは幻想的。本当に「この世の外」へ向って、生と死の境、狂気と現実の境を歩いているよう。
情欲は、相手が怖い男の愛人だからとか、自分には釣り合わない男だとか、そんな論理を超えて一気に結びつく。しかし、どこかで同じように死を望みながらも、赤目四十八滝への道行きのなかで、社会からドロップアウトして堕ちる道を選択し、おびただしい死の暗喩のなかに身をおいて、死んだ気分にひたる生島と、社会の最底辺で生きるしか選択肢がなく、死んだ方がマシなぐらいなんだけど、生きなきゃいけない綾ちゃんの対比が鮮烈に浮かび上がってくる。
役者も良い。寺島しのぶ、大楠道代、(嫌いだけど)内田裕也らがスレた良い演技を見せる。一方でこれがデビュー作となる生島役の大西信満は固くて棒読みけど、それがまたインテリ崩れっぽさ、裏社会では生きられない臆病さやクソ真面目な雰囲気を出していて良かった。

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