私のトラウマ映画『禁じられた遊び』

最近読んで面白かった映画本。
町山智浩『トラウマ映画館』2011年,集英社
映画評論家の町山氏が、思春期の頃に観た忘れたくても忘れない、心にグサグサ突き刺さった映画25本を紹介。現在では上映もソフト化も難しいだろうと思われる問題映画もある。このうち私が観たのは4本、しかも大人になってから。この4本だけでも、いやーこれ10代の頃に観たら、これからの人生に希望持てなくなりそうと思うぐらい、人間の心の闇や不条理で満ち満ちている。

私のトラウマ映画は、
ルネ・クレマン『禁じられた遊び』(1952年,フランス)
かなぁ…と思う。トラウマであり、今考えると、この映画に映画好きになる種を蒔かれたような気もする。

130604asobi.jpg言わずと知れた名作。死がよく分からず、お墓づくりを死の寂しさを埋める”遊び”にしてしまう無邪気な子供たちと、いがみ合い、戦争で殺しあいをする大人のエゴが対比しつつ描かれる。
私が、この映画をテレビ放映で観たのは10才ぐらい。内容は深く理解できなかった。ただ単純脳の子供から見ると(汗)、ホラー映画にも負けず劣らず、始終不安でざわざわする映画だったのである。
冒頭からいきなり機銃掃射で両親の背中が打ち抜かれ、4-5才ぐらい?の女の子ポレットがひとり取り残される。あんなにもあっけない、残酷な殺戮シーンを目にしたのもはじめてなら、子供には、親の死→子供はどうなるの?と瞬時に本能的に結びつき、不安におそわれる。ミシェル少年一家に面倒を見てもらえることになり、ほっとしたのもつかの間、今度は十字架泥棒なんてはじめるし、どんどんエスカレートしていくし、まるで自分が取り返しのつかない悪さをしてしまったような気持ちになり、やがてこの子供たちに襲いかかるだろう大人の怒りを想像してビクビクした。
そしてトラウマ映画になった決定的シーン。映画史に残る名ラスト。十字架のことが明るみになり、ポレットはミシェル一家と別れ、孤児院に送られることになる。修道女に大きな駅に連れて行かれ、首から「ポレット・ドレ」という名札をかけられて、ちょっと待っててねと一人にされる。その時、人混みのなかから「ミシェル」と声が聞こえ、ポレットは「ミシェール、ミシェール、ミシェール」と泣きながら人混みのなかに消えていく。
私は、一緒に観ていた父親に「この映画の続きはいつやるの?」と質問をした(←自分でもアホだと思うわ)。父は「続きはない。こういう終わり方もある」とあっさりと答えた。
えええっーーーだってポレットはどうなっちゃうの?
その日から、しばらくポレットがどうなったか気になって仕方がなかった。ミシェルの家に帰れたにちがいない、いや修道女がポレットを探し出してくれた、もしかしたら…!、悪い人にさらわれたのかも…いろいろと考えても、結局、誰もポレットの行く末は分からない。かわいそうな女の子は必ず幸せになれるお話ばかりを読んできて、またそれを信じて疑わなかった私だったが、そうならないこともあるんだ…とはじめて知った。

イエペスが演奏するテーマ曲はあまりにも有名で、その後も数えきれないぐらい耳にしたけど、今でもこの曲を聴くたびに、あのラストシーンとともにポレットはどうなったんだろうな…と、映画をはじめて見た時のざわざわした気持ちがよみがえってくる。『ジョーズ』を見た時は海では泳がないと本気で思ったし、『キャリー』の血なまぐさいシーンや『エクソシスト』の少女の豹変がいつまでも頭から離れなかったり、後を引いた映画は結構あるけど、その時の気持ちまで思い出すのは、この映画だけ。

ポレットを演じたブリジット・フォッセー。しばらく映画界から離れるけど、20才に女優に復帰。ジャン・エルマン『さらば友よ』(1968)、トリュフォー『恋愛日記』(1977)、クロード・ビノトー『ラ・ブーム』(1980)などに出演。有名な話だが、『ニューシネマパラダイス』(完全版,1989)に、トトの昔の恋人エレナ役としてちょこっと出演。よく見ると、ちょっとたれた眼、口角がきゅっと上がったかわいらしい口元、ポレットのあどけない面影が残っている。

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『私のトラウマ映画『禁じられた遊び』』へのコメント

  1. 名前:ぬけさく 投稿日:2023/02/16(木) 21:26:47 ID:16cd69973 返信

    あぁ!
    私と全く同じ気持ちの人がいた!!
    トラウマです!!
    嫌な気持ちしか残らない稀有な映画。
    子供ながら何でこんな映画を作るんだ?!?
    と、憤慨しておりました。
    大人になってから観ると違った感想もあるのかなぁ?

    • 名前:shimi 投稿日:2023/02/16(木) 23:22:04 ID:2e9c1a148 返信

      ぬけさくさん、コメントありがとうございます!。私も同じ気持ちの方がいてうれしいです!。この映画のことを書くとき、名画をトラウマといってしまって良いんだろうか…と思いました。大人になってから、もっと後味の悪い映画はたくさん見ましたが、やっぱり子どもの頃の印象は強く残りますね。
      大人になってから、この映画を観た時は、戦争の無意味さや、大人のエゴイズムや、もうちょっと深い意味があったんだなとは思いましたが、私はやっぱり子供たちの危うさに不安を覚えました。子どもの頃はこんな悪いことして怒られちゃうよ~、ポレットどうなっちゃうのよ~という単純な不安でしたが、大人になってから観た時は、ミシェルがポレットを慰めようとしてどんどん盗みがエスカレートして道を外してしまう、好きな子のために悪いことに手を染める彼の純粋さが、見ていて辛かったです(T-T)。