12月の映画鑑賞メモ

明けましておめでとうございます 
最初の記事が昨年の出来事…なんとも当ブログらしい年のはじまりです。こんな超マイペースサイトですが、今年もどうかよろしくお願いします。みな様にとってもいい年でありますように。

岡本喜八『肉弾』1968年,日本,DVD

斬新な戦争青春映画。多分、同監督の『日本のいちばん長い日』(1967年)と対になる作品。『日本の…』が、戦争をはじめたくせに、罪のなすりつけ合いや、非合理的な言い分や、くだらない利害対立で、戦争を終わらせられなくなった政治家・軍人・官僚らを描いたのに対し、本作は、そういう馬鹿で無責任な人たちの犠牲になった庶民たちの姿を描く。主人公の”あいつ”も、”あいつ”が出会う人々もみんな善良で純朴だ。そういう人たちほど、政治家や軍人に翻弄され、あきらめ、言いなりになるしかなかった。彼らはどこか滑稽なんだけど、滑稽なほど、逆に悲哀を感じてしまう。
戦闘も死も描かれない。シュールレアリズム的映像、詩の朗読のようなセリフ、悲現実世界のよう。しかし、 疲弊しきった大日本帝国や狂った時代を作った政治家・軍人への痛烈な皮肉、生と死と狭間で生きる人々、生きていることの奇跡・素晴らしさ、奪われた青春の切なさ…登場人物たちの思いは混然一体に、真実味をもって迫り来る。
古本屋のオヤジ(笠智衆)が、我慢していた小便を出しながら、特攻に行く”あいつ”に言う。「兵隊さん、死んじゃあダメだよ。死んだら、こんな良い気持ちになれないでしょ」。どんな絶望的状況でも生きていく意味はある、この一言に衝撃を受け、びびっと感動したよ。本作デビューの寺田農は肉体で演技し、大谷直子は美しい。

山崎貴『永遠の0』,2013年,日本,Blu-ray

日本の戦争映画は、どうして美談とか、感動になっちゃうんだろう。そんなの嘘八百でしょ、だって戦争に美しいも感動もないから。主人公の宮部(岡田准一)のようなパイロットがいたとはとても思えない。戦闘を避けたら戦線離脱で軍法会議にかけらるし、どんなに優れた腕があっても、兵士の士気を下げるような人は上官にもなれないと思う。嘘を塗り重ねて、特攻をことさら美しく立派に、感動的エピソードを盛りに盛って描く。それって、結局、無謀な戦争をやらかし、多くの犠牲を払ってもなお止められず、最後は未来ある若者に特攻を強制した人たちと同じ考え方だ。だから私は絶対に受け入れられない。そうではなくて、問題にすべきことは若者を特攻に行かせるような戦争をした日本という国の過ちだ。なんか日本の戦争映画は方向性が間違っているような気がするよ。

(映画から話は反れるけど、日本人は、戦後、近現代史における日本の過ちや罪についてきちんと向き合ってこなかったんじゃないか?と思う。教科書、文学、映画、その他歴史を伝える媒体で、日本の近現代史における過ち・罪を認め、自己批判しているものが、近年ますます少なくなっている。むしろ、教育者や研究者、文筆家のなかには、そうした日本の過ち・罪を認めることを「自虐史観」と批判し、日本人としての誇りを失わせるという主張する人たちもいる。近隣諸国との緊張も高まるなか、日本は負の歴史を葬り、作り変えようとしている方向に進んでいるような気がしてならない。そうやって歴史は繰り返すなんてことにならないといいけどね…。)

ベルンハルト・ヴィッキ『橋』,1959年,ドイツ,DVD。

傑作。今、戦争映画3本選べと言われたら、『西部戦線異状なし』、『ジョニーは戦場へ行った』、そしてこの『橋』を選ぶな。年端もいかない子供らを愛国心だ、国のために戦え、兵士になることは素晴らしい と洗脳して戦争に駆り立てる狂った大人と、そんな大人の言うことを疑いなく信じてしまう子供の幼さ、純粋さ。やり切れない。戦争は次から次へ無駄な死を生みだす、これ以上の悲劇はない。が、恐ろしいことに、この悲劇はいまだ続いている。
日本も同じ敗戦国だけど、ここまで冷徹に自己批判した映画は見たことがない。どうしてこういう違いが出てくるんだろう。

チャード・レスター『ジャガーノート』,1974年,イギリス,DVD

おそらく”爆発物処理パニックもの”というジャンルを確立した映画。結末は分かっていても、爆発物処理の繊細 な作業、犯人との駆け引きに最後までドキドキする~。最後に切るのは、青い線か?赤い線か?は、爆発処理パニックのお約束だけど、これが最初だったのね。ツッコみどころはいろいろあるんだけど、面白かったから、まいっか。

カレン・シャフナザーロフ『ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の砲火』,2012年,ロシア,DVD

WWⅡ末期のドイツソ連の戦車戦を描く。戦争ファンタジーという斬新な切り口の戦争映画。見どころはやっぱり戦車か。WWⅡで使われた本物のソ連の戦車T34がバリバリ走り回る。レビューや感想をググると、戦車ファンはこれだけで満足らしい。CGじゃなくて、本物走らせちゃうってのはロシアらしいところ。
でも内容は…自由奔放すぎて、まとまりが悪い。幻の戦車「ホワイトタイガー」と戦うというファンタジーな展開、バリバリの戦闘シーン…なんかロシア映画も変わったなーと思って見ていると、突如一転して、ドイツの降伏文書調印シーンでは、旧ソ連映画っぽい演出で、記者がけっつまずくところまで事細かに長尺でリアルに再現してみたり。これはこれで歴史的瞬間に立ち会っているようで興味深いけど、なぜこのシーンをこの演出で入れたか意図が見えないし、全体から見てもしっくりハマってない。そして、結末も戦争とは何か?という思想的哲学的なところに結論を持って行くんだけど、これも旧ソ連映画に比べたら底が浅い。

バリー・レヴィンソン『スフィア』,1988年,アメリカ,DVD

深海SF。理系小説家マイケル・クライトン原作。代表作は『アンドロメダ』、『ジュラシックパーク』など。テレビドラマER緊急救命室の製作総指揮、パイロット版脚本などでも活躍。この人の脚本・原作は、自然や科学に対していろんな考え方、劣等感やエゴイズムを抱えた、いろんなタイプの科学者が集められ、真相究明のためにぶつかり合うっていうパターンが多い。本作も同様。深海に謎の生命体→エイリアンか→いやパニック映画か→いやいや心理サスペンスだよーんという流れ。最後まで見れば、伏線もさりげなく散りばめられていて、最後は全部のエピソードが繋がるのだけど、謎解きを最後に一極集中させちゃったために、そこに持って行くまでの展開が散漫になったのが残念。ヒントは小出しにしてかないと。宇宙船と謎の物体→くらげ→巨大イカと…よく分からないままに次々といろんな災難がおそってきて、で、さっきの宇宙船の話はどこいっちゃったのよ…ってな感じになってしまう。結論を言うと、科学者は好奇心には勝てないってことかな(笑)。ダスティン・ホフマン、シャローン・ストーン、サミュエル・L・ジャクソン。役者が良かったのが救い。

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