5月の映画鑑賞メモ

31日
ロベール・ブレッソン『やさしい女』,1969年,フランス,アルテリオ映像館

ブレッソン初のカラー作品。日本では86年に公開されているらしいが、今回デジタルリマスター版でリバイバル上映。ドストエフスキー『やさしい女』が原作。自殺した妻を目の前に、男が2年間の結婚生活を振り返る…。
私にとって、鑑賞するのにもっとも忍耐力が要る監督(笑)。よく「ストイック」と形容されるけど、徹底してそぎ落とす。セリフと演出は最小限。音楽もほとんど使わない。役者は無表情に近く、セリフも悪く言えば棒読み。抑揚も感情も込めない。でも私は結構好き。美しいシーンを作るし、後からジワジワくる。
本作は分かりやすい方かと。だって、こんな男と結婚したら、息が詰まるもの。妻は音楽を聴いたり本を読んだり、博物館が好きだったり、人生を楽しむことができる人だと思う。夫はそんな若い娘を金にものいわせて妻にしたのに、結婚した途端ケチになるわ、プライドが高くて、自分の過去の汚点は隠すくせに、妻が自分より教養があるところを見せたり、仕事に口出しするとイラッとする。おまけに妻が外出すれば浮気を疑って、嫉妬深い。妻は、そんな夫がいない時にしか安らぐことができない。妻が本当に浮気をしたのか、夫に詰め寄られて泣いたのはなぜか?、そこは想像するしかないが…妻の最後のセリフ「私は貞淑な妻として夫を敬います」。これは妻にとっては不本意で、夫は満足したということだけは確かだ。女の立場からすると、それだけで立派に自殺する理由になると思ったよ。
鑑賞中は「やさしい」の意味がよく分からなかったが、夫を殺すか、自分が死ぬかまで追い詰められて、自分の死を選んだのだから「やさしい」のかもしれない。ドミニク・サンダ(17才)のモノ言わぬ強い視線は、何を思っていたのか、想像力をかき立てられる。

31日
ウディ・アレン『マジック・イン・ムーンライト』,2014年,アメリカ=イギリス,アルテリオ映像館

1920年代、南仏が舞台。超現実主義で毒舌家の天才マジシャンと、キュートな占い師(霊能者)との恋の行方は?!。
80才の巨匠アレンがチョイチョイと作った感じがするけど、お洒落で素敵な小作品。マジシャンと占い師という設定がアレンらしくて面白い。恋はロジックじゃなくてマジック!。自分のお相手にふさわしい人は他にもいるのに、なんでコイツなの?って人に、ドキドキしちゃうのが恋なんだよね。
マジシャン役はコリン・ファース。いつもウジウジしているイメージだが、暴言を吐きながら登場したので、おっ今回はキャラが違うぞと思ったのだけど、やっぱり恋に悩む面倒くさい男だった…(笑)。占い師のエマ・ストーンは超キュート。1920年代の衣装もよく似合って可愛い。そして、占い師のステージママ役のマーシャ・ゲイ・ハーデンがはまり役!。私は冒頭のコリン・ファース扮するインチキ中国人のパフォーマンスだけで激笑。

22日
ヨアンナ・コス&クシシュトフ・クラウゼ『パプーシャの黒い瞳』,2013年,ポーランド,岩波ホール

ジプシー(ロマ族)女性詩人ブロニスワヴァ・ヴァイスの生涯。パプーシャは愛称で「人形」の意味。実話が元ネタ。ジプシーは文字の文化を持たないが、パプーシャはただひとり読み書きができた。一族に匿われた詩人が、パプーシャに詩の才能を見いだす。
彼女の人生は、ジプシー差別、共同体内での女性蔑視、共同体からの追放…差別と迫害の人生だ。ジプシー差別があるなか、ジプシーたちは共同体の強い結束のなかで生きている。そうした共同体では、結束を乱すようなこと=個人の自由はなく、読み書きできるという程度の「ほかの人と違う」能力があるだけで虐げられる原因になってしまう。ポーランド人はパプーシャから旅も音楽も詩の源も、生活の糧も…全てを奪っておきながら彼女の詩を讃え、共同体の仲間は彼女が詩を書くことを忌み嫌い、共同体から追放する。彼女に非はないのだけれど、こうなったのは文字を習ったせいだ、詩を書いたせいだと、ただただ自分を責める。短いラストカットのなかに、パプーシャが人生のなかで封印してしまったいろんな思いが溢れ出てくるようで、切ない。
少し前に『イーダ』を見た時にも思ったけど、最近のモノクロ映画の映像はすばらしく美しい。階調が滑らかで高精細だ。デジタル撮影になったからかしら。この予告見ただけでも、びっくりでしょ?

17日
ロバート・アルドリッチ『カリフォルニア・ドールズ』,1981年,アメリカ,DVD

女子プロレスのタッグチーム、カリフォルニア・ドールズとマネージャー(ピーター・フォーク)が、地方どさ回りで苦労しながらあの手この手で、夢をつかむまでのロードムービー。ロバート・アルドリッチの遺作。大人のスポ根映画。
ロバート・アルドリッチで観たのは『飛べ!、フェニックス』(66)、『何がジェーンに起こったか』(62)の2本。これらに比べると、ストーリーは何のひねりもなく、健全すぎて、ちょっと拍子抜け。でも、やっぱり登場人物のキャラを立たせり、手に汗握らせるスリリングなシーン作りなんかは上手いなぁと思う。
最後のプロレスシーンもど迫力で、お約束通りカリフォルニア・ドールズが勝つんだろうなとは思ってるけど、勝負が決まる1秒前までドキドキさせられる。私は女子プロレスにまったく興味はないけど、彼女らのプロレスを観戦していると熱くなって、応援したくなる。そう思わせてしまうのは、作り手の凄さなんだろうな。あ、どうでもいいけど、彼女たちの対戦相手として、ゲイシャガールズ=ミミ萩原&ジャンボ堀も出てるよ。
下に貼り付けた予告は、なぜか『合衆国最後の日』とセットになっております。『カリフォルニア・ドールズ』の予告は後半1:02ぐらいから。『合衆国最後の日』も面白そう。バート・ランカスターだし、観てみたい。

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