6月の映画鑑賞メモ

周防正行『舞妓はレディ』,2014年,日本,DVD

華やかで、楽しい和ミュージカル。この監督らしく、センスの良い、手堅い娯楽作品。いちばんの魅力は、主演の上白石萌音ちゃんが”おぼこ”くて、”かいらしい”こと!。もう純朴で、垢抜けしなくて、ひたむきな彼女を見ているだけで、お姉さんはかわいいわぁ~と目を細めてしまう。歌唱力も抜群。脇を固める俳優は富司純子、田畑智子、草刈民代、渡辺えり、竹中直人と芸達者揃い。オチも、ほっこりして、私は好きだな。ちょっと残念なのは、それぞれの俳優に歌って踊る見せ場を作ったことで、やや散漫になったこと。富司純子の初恋の回想シーンは素晴らしいと思うけど、竹中直人と草刈民代の見せ場は、それぞれの得意芸を出しただけで、話の流れが折られる感じがしないでもない。
タイトルからも分かるように、下敷きになっているのは『マイ・フェア・レディ』。本歌取りなシーンもいくつかあり、元ネタを知っているとさらに楽しい。「スペインの雨は主に平野に降る(the rain in spain stays mainly in the plain)」けど、「京都の雨は大概盆地に降るんやろか~♪」には思わず笑ってしまったよ。ついでに冒頭シーンは、富司純子の当たり役『緋牡丹お竜』のパロディ。粋なことをするぜ。


スパイク・ジョーンズ『her/世界でひとつの彼女』,2014年,アメリカ,wowow録画

人工知能OSと恋に落ちゃった男の話。この近未来像はリアルだわ…。
主人公セオドアは不器用で、女性と上手く人間関係が築けない寂しい男。そんな彼の元にやってきた人工知能OS、サマンサ。彼女は仕事も完璧に補佐し、PCのデータから彼の好みも理解し、彼の性格を学習し、絶妙なタイミングで絶妙な言葉をかけて、彼を楽しませ、慰め、従順である。sexも手伝ってくれる(言葉でだけど)。そう、恋をできないセオドアにとっては、まさに至れり尽くせり、理想の彼女。でも、彼だけが特別なわけではなくて、こんな人工知能OSとの恋が普通になってる社会。
昨今、「草食男子」、「絶食男子」とか言われるように、恋をしない若い人が増えているなかで、これはリアルだなぁと思ったの。以前、若い人になぜ恋をしないか聞いたことがあるけど、傷つくのが怖い(コレは分からないでもない)、相手に声をかけたり、好意を持ってもらう努力が面倒、相手に合わせたり、妥協するのも面倒だと言う。とにかく異性と付き合うのは、面倒ならしい…。もし、今、こんな人工知能OSあったら、すぐに映画のような社会になっちゃうような気がするよ。
しかし、この映画では、人工知能能OSがどんなに人間に近づいても、住む世界が全く違うことを示唆する。最後に寄り添えるのは不器用な人間同士だと。そこに救いを感じた。
この監督の他代表作は『マルコビッチの穴』。想像力豊かな人だと思う。主役は、ホアキン・フェニックス。兄ちゃんの故リバー・フェニックスのような華はないけど、とても真面目な演技をする人で、私は好き。

クロード・ルルーシュ『愛と哀しみのボレロ』1981年,フランス,wowow録画

人生は「ボレロ」のように。次世代に受け継がれ、繰り返されるメロディと、国境をも越えて別の誰かの人生の音と交錯していく広がり。一つ一つの人生の物語はちっぽけでも、壮大な音楽を奏でる。フィナーレを飾るジョルジュ・ドンのバレエは圧巻。
この大河ドラマには「相対化」という視点がある。一般的に大河ドラマは、ある時代の特定の人物を描く。その人の生涯はよく分かるが、その人が特別なのか、一般的なのか、その時代でどう位置づけられるのかまでは分からない。しかし、本作は、ドイツ、フランス、ロシア、アメリカと舞台もさまざま、第二次世界大戦から80年代ぐらいまで、戦時・親世代~戦後・子世代という異なる世代の、有名音楽家から虐げられた庶民まで様々な人々が主人公となる。そのことによって、戦争に勝っても負けても、体制が違っても、戦争はすべての国のすべての人々に悲しみをもたらし、次世代にまで暗い影を落とし、こうした戦争体験者が新しい時代へ希望を託していくという時代の大きな流れ、「時代そのもの」が、観客の目の前に立ち上ってくる。
ジュラルディン・チャップリン(チャップリンの娘)がこんなに歌が上手いとは知らなかったなぁ。

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