9月の映画鑑賞メモ

狙ったわけではないが、実に刺激的なfrown1ヶ月であった…。

神代辰巳『一条さゆり 濡れた欲情』,1972年,日本,wowow録画

日活ロマンポルノ。神代辰巳監督は以前から見たいと思っていたが、9月にwowowが一挙に代表作を放映してくれた!。
50代後半以上の男性なら分かると思うが、リアル世界でも伝説的なストリッパーだった一条さゆり。彼女が本人役で、引退間際の頃の実話をなぞったストーリーなので、半ドキュメンタリー風な作品になっている。若いストリッパーが彼女にライバル心を燃やす!ってだけの話なんだけど、人間の滑稽さやおかしみが滲み出て、監督の主張もしっかりとある。たしかにHな描写は多いけど、あまりポルノ映画って感じがしない。
実際に一条さゆりもそうだったと思うんだけど、ここに出てくる踊り子たちは、客を喜ばせることに生き甲斐を見いだし、仕事に誇りも持っている。だから、一条ほどには客を喜ばせられない若いストリッパーは、嫉妬もするし、彼女を超えようと芸を磨き、努力もする。一方で、ストリッパーが偉そうにしてるのが気に入らないと、一条さゆりに絡む男を”ゴミ”のように描いたり、猥褻罪で刑事に連行されるストリッパーに警察署の前で素っ裸になって暴れさせたり…この映画には、「性」を売る女性に対する優しい眼差しと、そういう女性を蔑んだり、否定する者への強い反発がある。今更カマトトぶっても仕方ないから、ぶっちゃけAVも見たことあるが、作り手は女をバカにしてんのか?と思うけど、この映画の神代辰巳はストリッパーやポルノ女優の味方って感じがする。もちろん、性を売る仕事には人権を無視する酷い環境があることは分かるし、私自身がそれを全肯定してわけじゃないよ。念のため。
一条さゆりの舞台がフィルムに残っているという点でも本作は貴重だし、彼女が伝記本を書かれたり、知識人たちに持ち上げられた理由も分かったような気がする。ストリッパーという仕事に真面目で一生懸命。自分を貶めず、気品もある。今の「壇密」人気と通じるようなところがあると思う。晩年は悲惨だったみたいだが…。若いストリッパーを演じたのは伊佐山ひろ子。今や名バイプレイヤーで、ちょこちょこ見ます。

アレクセイ・ゲルマン『神々のたそがれ』,2013年,ロシア,ユーロスペース

何なんだ!。この汚くて猥雑で混沌とした世界は!。同監督の『フルスタリョフ、車を!』を見た時も衝撃だったけど、その比じゃなかった。わけが分からないけど、とにかく、この監督が創った世界に、3時間圧倒されっぱなし。映画も中盤にさしかかった時、お茶を飲もうとして、ぽかーんと口を開けてスクリーンに見入っている自分に気づいた。リアル開いた口がふさがらない状態
原作は、SF作家ストルガツキー兄弟『神様はつらい』。タルコフスキー『ストーカー』の原作者としてもよく知られている。地球より800年ほど進化が遅れている惑星アルカナル。調査団としてやってきた地球人ドン・ルマータは「神」の子孫だと信じられていた。この「神」ドン・ルマータの目線で、アルカナルの世界が描かれていく。
人間にとって神智は計り知れない。しかし、この映画は、神からみた人間世界を、ドン・ルマータとアルカナル人たちの世界として再構築しようとしたのだと思う。アルカナルでは、知の芽はことごとく支配者に刈り取られ、知識も芸術も文化も、モラルすらない。人々は泥もうんこも一緒くたの生活。ご飯食べるのと同じ感覚で殺人や拷問がはびこり、支配者や殺戮者を滅ぼしても、また新しい殺戮者が現れる。バカがバカを殺戮する歴史の繰り返しだ。ルマータから見れば、救いようがない世界だけど、人間世界だって神の目からみればそんなもの、ということなんだろう。ルマータが、白いハンカチで汚れを拭っても拭っても、あっという間にまた汚れていく。「神」の白いハンカチは虚しい。
とはいっても、これは作品の1%も説明してないと思う。この監督が創った世界はどんな言葉で説明しようとしても説明し足りない。たったワンカットのなかに、建物や人物や衣装や食べ物や小道具や…ありとあらゆるものが細部まで緻密に組み込まれ、今まで見たことも、想像したこともない世界がそこに現れる。とにかく、見て!としか言いようがない。ただ、グロいシーンがたくさんあるから、見るなら覚悟が必要。
例えばピエル・パオロ・パゾリーニ『ソドムの市』(1975年)とか、アレハンドロ・ホドロフスキー『エル・トポ』(1970年)のような問題作の類いに含められるかというと、それもちょっと違う。確かに、モラル崩壊の世界だし、残虐なグロ映像もある。しかし、人間の愚かさを考えさせられたり、映像も乱雑なりの美しさがあったり、芸術性も感じさせる。そして前述作品のようなモヤモヤっとした後味の悪さもなく、凄い映画見たなーっていう興奮だけが残る。『ソドムの市』をまた見たいかと言われたら悩むけど、これはDVDが出たら、もう一度見たいと思う。
とりあえず予告だけでも見て下さい。

マーク・ウェブ『(500日)のサマー』,2009年,アメリカ,DVD

「女心と秋の空」なんて嘆いている草食系男子は必見
ウディ・アレン監督『アニー・ホール』がヒントになってるとのこと。なるほど~確かにそうだ。『アニー・ホール』も、本作も、恋ベタな男の一方的な視点から描いた恋愛ストーリー。なので、女性の気持ちがなぜ変化したのか、何を考えているか、ほとんど描かれない。女性が心変わりするのにはちゃんと理由があって、そのヒントも実は映画のなかに隠れているんだけど、恋ベタな男たちは、それを見てないし、理由を想像しようともしないから、彼女がただただ自分を振り回す気まぐれ女に見えちゃう。一般的に、男は女の態度や言葉の裏側にある気持ちを分かろうとしないって言うけど、『アニー・ホール』のウディ・アレンも、この映画のトムも、120%それに当てはまる男。例えば、サマーは恋愛には超ドライで、映画『卒業』を見て絶対に泣くような女子じゃないのに、号泣した。その時点で、彼女に何かあった…と気づかないとな>トム。でもね、恋にウブだった頃の振り回され感はよく分かるよーーー。私もそんな時代があったから(笑)。
構成や映像も凝っている。時系列はバラバラで、ラブラブの時、別れを告げられた時、両端から二人の関係が決定的になったところへ向かっていくような構成。彼女と初めて一夜を過ごした朝は踊り出したくなったり、彼女とこうなったらいいなーという妄想をしたり、思い通りにいかない時は景色が灰色に見えたり、そのまま映像化しちゃうところも面白い。監督の経歴を見たら、元ミュージックビデオの監督だった。それでこんなにオシャレで、インパクトある画作りができるのか…と納得。映画の引用もたくさんあって、さっき挙げた『卒業』、彼女との仲が気まずくなって一人見る映画は、神の不在・人間のエゴイズムを撮り続けたイングマル・ベルイマン『第七の封印』、『ペルソナ』のパロディだったり(笑)。
この恋は運命!。互いにそう思える人に会えるのは奇跡。でも恋に恋する草食系男子を卒業したトムは、きっといつか運命の恋に出会えるはず。次の季節が必ず来るようにね。

ポール・バーホーベン『スターシップ・トゥルーパーズ』,1997年,アメリカ,DVD

カルト的人気がある映画。娯楽作としてふつーに楽しめるんだけど…正直、何だこれ?と戸惑ってしまう。「何だこれ?」って思わせるこの映画の「変なとこ」を愛したくなる人がいるのは、分からないでもない。この「変なとこ」を面白がれる人は、相当の映画通だろうなと思う。
原作はロバート・A・ハインライン。人間vs巨大昆虫型宇宙生物との宇宙戦争と、青年兵士たちの成長物語。低予算B級映画じゃなくて、お金も手間もかけた狙ったB級映画。B級コミック並みの単純明快ストーリー、サンダーバードみたいな古くさくて子供っぽい演出。登場人物も、これまたサンダーバードっぽい胡散臭い顔つきの、いつの学園ドラマの人ですか?ってくらい薄っぺらい人たち。彼らのセリフも「ボクは地球を守るんだ!」とか、「いつまでも友だちでいましょう」とか空虚な言葉ばかり。
そ・れ・な・の・にっ!。虫との戦闘シーンだけはど派手、ど迫力。集団として襲撃してくる恐さも、人間に襲いかかる様子も、残虐リアルに、細かいところまで見せる見せる…。1964年、ダグラス・ヒコックス監督『ズールー戦争』の名戦闘シーンを彷彿させる力の入れよう。敵が虫ってのも肝で、、兵士たちは、ゴキブリを踏みつぶすのと同じ感覚で殺しまくるから。戦争映画では重要な要素になる殺す行為への躊躇いや疑問、罪悪感とか、そういうの一切ないの。
内容を素直にとらえるなら戦意高揚だけど、今まで見てきたように、あまりにB級なくだらない世界をわざわざ手間ひまかけて作り上げており、こんなふうに意気揚々とカッコつけて戦争する人たちを小馬鹿にするモンティパイソン的コメディ映画か?と思えてきちゃう。最後は、「君も地球連邦軍に入隊しよう!」>www…ってな感じよ。

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