6月~8月の映画鑑賞メモ

しょぼい内容の上に、雑になってきている映画メモ、第4弾。これでラスト!

スタンリー・キューブリック『バリー・リンドン』,1976,イギリス,DVD
18世紀半ば、アイルランドのある青年の人生流転物語。完璧主義キューブリックが超絶技巧で18世紀のヨーロッパを忠実に再現した。衣装や化粧、調度品、景色…なんと光まで!。語り草ですが、蝋燭の光だけで撮影するという当時の技術では不可能だった撮影までやってのけた。その意味で、キューブリック最高傑作。
まるで最上の絵巻物を鑑賞しているよう。するするっと巻物を広げていくように、美しい絵で、俗でつまらない男の栄枯盛衰が、俯瞰的に、徹底した第三者視点で流れていく…。 テーマが明確なキューブリックが、なんでこんな作品を撮ったのか分からないとよく言われるんですが…なんかね、私は「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり」とか、「行く河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず…」とか、日本人の無常観に通じるものを感じたよ。富も権力も愛する人もいつかはなくなるもの、最後に残るのは虚しさだけ、彼の俗っぽい野心が妙に悲しくなってしまうの。見応えありすぎ。
この人生流転と無常感は、溝口健二「西鶴一代女」(’52)と重なるなぁ。主人公お春は、バリー・リンドンのように自分の意思で道を選択するのではなく、美しかったゆえに男に消費されて流転しちゃうんだけど。

ジョン・キャメロン・ミッチェル『ラビット・ホール』,2011,アメリカ,DVD
子どもを不慮の事故で亡くした夫婦の再生の物語。どうやって子どもの死を受け入れるか、悲しみと向き合うかはひとそれぞれ。同じ体験をしたとしても、その人の慰め、やり方は通用しないし、夫婦でも違う。自分で見つけるしかない。死を受け入れるって言葉では簡単だけど、苦しい道のりだ。そんな主人公の悲しみや苛立ちに、繊細に寄り添った映画。主演はニコール・キッドマン。

土井裕泰『ビリギャル』,2015,日本,アマゾンビデオ
学年ビリの高校生が、慶応大受験に挑戦!。ドラマチック泣かせ演出のてんこ盛り。実話なのに、リアリティなくなっちゃってる…残念。でも、前向きに頑張る若人を見るのは、素直に気持ちが良いです。

阪本順治『団地』2016年,日本,新宿シネマカリテ
「あり得ないことがあり得るのがダンチでしょ!」。もうね、同じ団地住人として、このセリフに思わず大きくうなずいちゃったわ(笑)。
団地という超日常的な場に、巧みに溶け込んだSF世界と生死の境界線。住民たちの滑稽さ、笑いのなかに、夫婦や少年の悲しみが淡ーく深ーく染みてくる。藤山直美、岸部一徳、斎藤工、大楠道代…怪優を揃えたなぁ。
偶然だけど。『ラビット・ホール』の、ニコール・キッドマンが子どもの死を受け入れるきっかけになった考え方を、現実化したのが『団地』って感じ。パラレルワールドはある!(ちょっとネタバレ)

デヴィット・ヴェント『帰ってきたヒトラー』2015,ドイツ,TOHOシネマ
経済も政治も閉塞感、何か大きい力で打開を求めたがる人々。反省の歴史にも飽き飽き。 もしこんな現代にヒトラーが甦ったら?。この着眼点は良い、現代への警鐘という意義もある。でも…カット割りや映像が平板で、展開モタモタ。残念。

キャサリン・ビグロー『ゼロ・ダーク・サーティ』2012年,アメリカ,DVD
CIAがビン・ラディンを捕獲、殺害するまで。タイトルは、軍事用語で深夜0時30分のことで、ビン・ラディンを襲撃した時間。実話に基づいており、ラストシーンはリアルタイムでビン・ラディン潜伏先襲撃を描いた。
ミクロレベルでの戦争の狂気、テーマの絞り込みと、詳細リアルな描写。この監督の得意技が炸裂。でも、ちょっとくどかったかなぁ。こういう映画で緊張感は重要だけど、緊張マックスシーンを引っ張りすぎ。私の集中力が切れた
主人公マヤはアメリカという国を体現してるのだろう。大義名分なんかどうでもよくて、とにかくヤツをぶっ殺してやるという、ただの狂気と執念の塊になっていく。彼女の涙は、喜びでも悲しみでもなく、虚しさ。最後、パイロットに「何処へ行くか?」と聞かれても彼女は答えられなかった、アメリカはどこへ行くのだろう…。戦争は大勢の人の命を賭けた大博打だな、と思いました。

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