2017年後半期映画メモ(2)

ロバート・ミッチャム特集だよ!。
彼の出演作で今まで見たことがあったのは『眼下の敵』(1957,戦争映画の名作)のみ。”ドイツ軍を助けるアメリカ軍駆逐艦キャプテン”のイメージしかなかったけど、今回見た作品で、え!こんな役をモノにしちゃう俳優だったの?!と、役者としての幅の広さに敬服。今まで誤解しててゴメンよ、ミッチャム。

J・リー・トンプソン『恐怖の岬』,1962年,アメリカ

ケイディは弁護士サムのせいで有罪になったと信じ込み、刑務所で法律を勉強し、出所後、サム一家への復讐を開始した。
自分に非はないのに、まったく思いもよらないところで恨まれてるって、めっちゃ怖くないですか?。で、恨んでる人が執念深くて凶暴で、性犯罪者で、法律に詳しくて賢かったら?。一発で復讐してこないんですよ、自分の身を法律で守りながら、本人ではなく奥さんや娘をターゲットに恐怖を与えつづける。ぎゃーやめてぇえーーー!ですよね。この映画の恐さは、ケイディの細部までいきとどいた人物像の作り込みと、これを演じたロバートミッチャムの存在感!に尽きるでしょう。弁護士役は正義の人グレゴリー・ペック。
1991年のリメイク『ケープ・フィアー』(監督;マーティン・スコセッシ)は、脚本、演出、キャスト、結末…あらゆる点でオリジナルより見劣りする。例えば、リメイクのケイディ役はあのデ・ニーロだけど、ミッチャムの方が断然怖いもん。デ・ニーロは最初からイカレポンチ全開だけど、ミッチャムは何を考えてるか分からない顔してて、徐々にその冷酷さと狂気があらわになっていく。結末もリメイク版はホラーだけど、オリジナルは人間ドラマ。
↓は、ロバート・ミッチャムとデ・ニーロのケイディ。どっちが怖い?。

チャールズ・ロートン『狩人の夜』,1955年,アメリカ

犯罪もの。ある強盗犯が奪った金を隠して死刑になった。この強盗と刑務所で知り合ったハリーは、隠された金を目当てに、偽牧師となって強盗犯の妻子の前に現れた。近年、急に再評価された作品であり、本作を愛する監督多数。
犯罪ものというリアルさが求められるジャンルなのに、寓話的な映像や演出がなされていて、正反対の要素が違和感なく融和している不思議な映画。狂気と無垢、悪と正義、罪と赦し、嘘と真実、大衆の愚かさ。いろんな意味深なテーマが見えるけど、どれも掘り下げ方が中途半端。エピソードがつながらなかったり、意味がよく分からなかったり、はっきり言って稚拙なところ山盛り。しかし。それを打ち消すほどに、恐ろしいまでに幻想的で、美しいシーンがいくつもあって、時間が経っても何度も繰り返し思い出してしまうような中毒性がある。私が好きなのは、夜、偽牧師ハリーが賛美歌を歌いながら子供たちの家にやってくるシーン。子供を守ろうと銃を持って見張ってる老婆(リリアンギッシュ)が、その歌に答えるように同じ賛美歌を歌うんですよ。神を利用するハリーの底知れぬ不気味さ、老婆の本物の信仰と強さが、対比されつつも一体になり、しかも美しい映像で緊張感も生み出すという奇跡。
ミッチャムは紳士的でにこやかな振る舞いのなかに偽牧師の”偽物感”を放出させまくりの演技。彼の何もかもが嘘くさい…。それに対する往年の女優リリアン・ギッシュも、悲しみにじっと耐え、しっかり地に足をつけて生きてきた人のたくましさが出ていて良かった。
監督チャールズ・ロートンの本業は俳優。ビリー・ワイルダー『情婦』で弁護士役を演じていた人。本作の不評に腐ってしまって、監督は本作のみになってしまった。うーん、でも、1本の映画のなかに、大御所監督がこぞって真似をしたがるシーンをいくつも作ったわけだから、才能はあったんじゃないかなー。撮り続けたら傑作残せたかもと思う。

シドニー・ポラック『ザ・ヤクザ』,1974年,アメリカ,DVD

ロサンゼルスの私立探偵ハリーは、旧友のジョージから日本の東野組に誘拐された娘の救出を依頼される。元暴力団幹部の健は、ハリーに義理があったため彼に協力することに。日本のヤクザを描いたアメリカ映画。日本人の共演は高倉健、岸惠子。
脚本がレナード・シュナイダー。彼は日本の大学で講師をした経験があり、『太陽を盗んだ男』の脚本も書いているほどの日本通。なので、外国人が日本のイメージだけで作っちゃった”とんでもシーン”がない。しかし、外国人が興味を持つ「義理」や「礼節」などの様式美を誇張するあまり(海外ではここが評価されているけど)、日本人にはリアリティもないし、任侠を美化しすぎな感じもあって、やっぱり外国人が見た不思議な国ニッポン以上の映画ではないな…と、私は思う。
健さんはかっこいい。殺陣の間の撮り方、スピード感と緊張感、あの殺陣は日本文化を知らない人だってカッコいいと思うだろう。しかし、肝心のロバート・ミッチャムが精彩を欠く…orz。年齢のせいか?。役柄のせいか?。日本語が下手だからか?。前の2作ではロバート・ミッチャムの垂れ目が異様に怖かったけど、この映画ではそれが緊迫感を削いでいるような気もしないでもない。

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