パッツィーに捧げるシャルロット・リュス

 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ 少年を誘惑するケーキ

5月21日「ランダ大佐に捧げるシュトゥルーデル」に続き、映画に出てきた気になるお菓子を作ってみよう第2弾!(←調子こいてます)。第2弾は、セルジオ・レオーネ監督「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(1984年)に出てくる、クリームもこもこケーキ。
1920年頃のNYの貧民街。スリや密輸の手伝いなど悪事を働いていたユダヤ系移民の少年たちは、ギャングへと成長していく。彼らの半世紀に及ぶ友情、裏切りを描いた壮大な物語。主演はロバート・デ・ニーロ。

クリームもこもこケーキは少年時代のエピソードに登場→
彼らの住む街にはケーキを持って行けば誰とでもやるペギーという女の子がいる。パッツィーという少年がなけなしの金をはたいてケーキを買って、彼女の家へ行くのだけど、彼女の部屋の前で待っている間に、包み紙についたクリームを指でちょっとなめ、もう一口なめ…としているうにケーキの誘惑がどーっと押し寄せてきて、むさぼるように全部食べてしまうというシーン。
セルジオ・レオーネは、モリコーネのノスタルジーな音楽にのせて、とくに重要でもないこのシーンに2分以上かけている。大人もビビる犯罪にも手を染め、女性を抱きたいなんて背伸びをするけど、まだまだ「ケーキ>>>女性」のあどけない少年であることをふっと垣間見せるのである。庶民的なケーキなんだろうけど、このシーンではとても贅沢で美味しそうに見える。

 それはャルロット・リュス?

このケーキ、字幕ではクリームケーキとか何とかと言っていたような気がするが(あやふや)。私は最初アメリカンカップケーキだと思った。簡単に作れるけど、作ってもあんまり面白くないなと。しかしちょっと調べてみたら興味深い記事を発見。NYの様々な情報を提供しているらしい「CAPITAL」というサイトのLeah Koenigさんの記事

「Lost foods of New York City : Charlotte Russe」

この記事で、ケーキの形と時代から考えて、映画のケーキは1900年代前半頃までNYブルックリンで人気おやつだったシャルロット・リュス(Charlotte Russe)ということが判明。
記事にも書かれているが、普通シャルロット・リュスというと、私もビスキュイ生地(バターの入らないさっくりしたケーキ生地)を棒状に焼いたものを型の表面に隙間なく敷き詰めて、そのなかにババロアやフルーツを流し込んだケーキのことを思い浮かべる。もともとフランス菓子だったけど、アメリカでは劇的に簡素化されて、紙カップにスポンジケーキを敷き、その上に鬼盛りホイップクリーム、マラスキーノチェリーを乗せたケーキに変形したとのこと。ヨーロッパ移民にとってハイクラスの贅沢品だったシャルロット・リュスが、アメリカで労働者層に合わせてに変化したのではないかと推測されている。庶民の手が届く最高のおやつだったらしい。
しかし戦後にはその人気は落ちて、70年代半ばにはほぼ廃れた。現在、このケーキを作っている店は、著者の調査したところでは1軒だけ。買いに来るのは昔を懐かしむ人たちばかりで、今となっては昔懐かしの安っぽいケーキという位置づけ。このままだったら将来はないだろうとも…。

いやー、大してめずらしくもないカップケーキと思っていたものが、全く別のもので、しかもこんな歴史があったとは驚きだった。日本人が宮崎駿『風立ちぬ』に出てきたシベリアを懐かしむように、アメリカ人がこのケーキシーンを見るとノスタルジーを感じるのかもね。「庶民の手が届く最高のおやつ」ってことは、貧しいパッツィーには滅多に口に出来なかったんだろう。シャルロット・リュスをむさぼるパッツィも、これひとつで体を売っちゃうペギーも、何だか切ないな。

 シャルロット・リュスを作って食べてみよう

上記記事にレシピも載っていたので概ね忠実に再現してみたよ。詳しいレシピは下記の通り。ハイ 前回記事にしたマラスキーノチェリーは、このシャルロット・リュスのために作りました>2014.6.19/マラスキーノチェリー仕込んだよ
記事によるとフリフリの紙カップ、てんこ盛りクリームは、アメリカ人がノスタルジーを感じる重要ポイントらしいので、そこは忠実に守る。というか、バランスがとても悪いケーキなので、紙カップがないと崩れちゃう。

←完成品はこちら。
で、味はというと。昭和の子供だった日本人にも
懐かしケーキ

白いクリームに赤いチェリーって…日本人にもノスタルジーを感じさせるわ。見た目も、味も非常にシンプル、しっかりとした甘さ>これは昭和のケーキに通じるものがあるよ。「スイーツ」なんつう言葉に象徴されるように、甘いものにおしゃれ感やトレンド感を求める今のケーキは、材料を複雑に組み合わせすぎたり、目新しさを追求しすぎたり、やり過ぎ感があるような気がするの。
スポンジケーキは、別立て(卵黄と卵白を別々に泡立てる)だからキメが粗め。バターも牛乳も入らない、薄力粉ではなく中力粉を使い、砂糖が多いので、パサッとして、食感がややねちっり。日本の駄菓子に「丸ぼうろ」ってあるけど、ちょっとあれに近いかな。もうすこししっとりさせた方がクリームとのなじみが良くなると思うけど、これはこれで懐かしさもあって、私は好き。そして、たっぷりの生クリーム、マラスキーノチェリーの上品な香り、スポンジに塗った甘酸っぱいラズベリージャムの相性がとても良くて、これらが高級感を一気に引き出す。手が込んだ高級感じゃなくて…
庶民の分かりやすい高級感
というか。
これを目の前にして、我慢できなかったパッツィーの気持ちがよく分かる。私も、ケーキというのが年に数回しか食べられない特別なお菓子で、バタークリームかチョコバタークリームか、サツマイモの偽モンブランぐらいしかなかった時代の子供だったことがあるからね。

 レシピ

長くなるけど、最後に参考にした記事のレシピを引用しておくよ。英語のよくわかんないとこは、テキトーに誤魔化して訳しているので正確ではないです。とりあえず、これでケーキは完成したけど、間違ってるところがあったら教えてくださいませ。(ブルーの字)は私が書き加えたところです。
小麦粉は薄力粉にしたいところだけど、all-purpose flour中力粉とあるので、お菓子作りにも向いているという中力粉メルベイユを使用。
次の2点だけ変更した。一つは卵白に水をいれなかったこと。分離して、へたりやすくなりそうなので(勘)。二つ目はクリームの種類。レシピには「ヘビーホイップクリーム」とあって、多分、乳脂肪の高い生クリームのことだと思うのだけど、ケーキに盛る量が半端ないし、カロリーが恐ろしいことになるし、自分の胃袋と体重にも 相談して、乳脂肪36%の軽いクリームに変更。乳脂肪が低いとクリームが緩くなるので、ゼラチンを少量入れて固めに仕上げた(参考のあぷ~さま ダレないホイップ)。

 注意点
アメリカの1カップ=240cc
ティースプーン=ほぼ小さじ1
テーブルスプーン=ほぼ大さじ1

【ケーキ】
中力粉 1/2カップ(約65グラム)
BP ティスプーン1/2
塩 ティスプーン1/4
卵4個 卵黄と卵白に分ける
冷水 テーブルスプーン1
砂糖(グラニュー糖) 1/2カップ(約100グラム)+1/3カップ(約66-7グラム)
バニラエッセンス ティスプーン(小さじ)1/2

【トッピング】
ヘビーホイップクリーム 2カップ
粉砂糖 テーブルスプーン2
ラズベリージャム
マラスキーノチェリー15個
(お好みで)チョコスプレー、削りチョコなど

【作り方】

  1. オーブンは約180度に余熱。15×10インチのロールケーキ型にバターを塗る。(私は29センチ×29センチのロールケーキ型を使用、バターではなくわら半紙を敷いた)。
  2. 小麦粉、BP、塩を小さなボウルにふるい入れ、準備しておく。
  3. ミキシングボウルに卵白と水を入れる。泡立て器又はハンドミキサーで、1/2カップ砂糖を少しずつ加えながら泡立てる。混ぜ加減はもったりとして明るいツヤが出るまで。置いておく。(卵白に水を入れない方がしっかりしたメレンゲになると思う、卵白は冷やした方が泡立ちやすい)
  4. 別のミキシングボウルに卵黄を入れ、ドロッとして色がやや薄くなるぐらいまで混ぜる。1/3カップ砂糖を少しずつ加え、続けてバニラエッセンスを加え、完全にもったりとして白っぽくなるまで泡立てる。(卵黄は人肌ぐらいの温度が泡立ちやすい)
  5. 白身(3.のメレンゲ)に卵黄(4)を入れ、ゴムべらでやさしく、しずかに混ぜる。さらに粉類を入れ、全体がまとまるまでしずかにまぜる。混ぜすぎに注意。準備しておいた型に生地を均一に広げ、約12-15分、薄茶色、弾力がでるまで焼く。オーブンから出したら、(型から外して?)ケーキクーラーにのせて、すこし冷ます。2・1/2インチのクッキー型でケーキを丸く切り抜いておく。
  6. 冷やした泡立て器かハンドミキサーで、生クリームを柔らかい角が立つまで泡立てる(泡立て器ではなくボウルの底を氷水で冷やしながら泡立ててもダイジョブ)。粉砂糖を加え、ピンとした角が立つまで泡立てつづける。
  7. シャルロットリュスを組み立てる。 ペーパーカップか、小さいグラスの底に丸く切り抜いたスポンジケーキを置く。上にラズベリージャムを一匙ほど塗り、さらにホイップクリームを惜しみなくてんこ盛りにする。ホイップクリームを絞り袋に入れて星形や丸形の絞り口で絞り出してもよい。チェリーをのせ、お好みでチョコスプレーなどをふりかける。

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