5月の映画鑑賞メモ

数ヶ月観ていなかったので、今月はがんばっていっぱーい観たよ。

アキ・カウリスマキ『ル・アーブルの靴みがき』2011年,フィンランド=フランス=ドイツ,ブルーレイ
下町の人間模様。自分の生活もいっぱいいっぱいなのに、ピンチにはみんなで力を合わせて助け合う。自己犠牲とかじゃなくて、そうすることが当たり前という感じで自然に。こういう人々にこそ奇跡は起きるべきなんだ。相変わらず、簡潔にして余韻を感じさせる演出は見事。仲良しご近所のなかで、ひとり浮いてる密告者のじーさん役がジャン・ピーエル・レオだった!(←「大人は判ってくれない」の少年)。映画では20年ぶりに見たよ。大人は判ってくれないの鬱屈したアントワーヌ少年が年取って、ひねくれじじいになった感じ(予告の1分36秒辺りに出てきます)。

ウディ・アレン『ミッドナイト・イン・パリ』2011年,アメリカ=スペイン,wowow録画
誰もが1度は想像すると思う。1900年~1920年代頭の芸術が花開くパリ。ドガ、マティス、ゴーガン、ロートレック、そしてヘミングウェイ、ダリ、ルイス・ブニュエル…作家や画家が集うカフェに行けたら!。それをまんま実現しちゃった映画。でも憧れの時代に行ったら、その時代の人はもっと古い時代に憧れてたってのも皮肉が効いて面白いな。アレンの想像力に脱帽。
ヨーロッパに拠点を移してからのアレン作品はとても良い。ますます好きになった。

コーネル・ワイルド『ビーチレッド戦記』1967年,アメリカ,VHS
日本軍が支配する南太平洋の島へアメリカ兵が上陸する。戦闘へ投げ込まれる日米双方の兵士らを描く。映画の作り方は稚拙。特に回想シーンは映像も下手くそだし、どの兵士も大して中味が変わんない。日本兵の回想なんて…orz。そこ日本じゃないし…みたいな映像だし(この時代だから仕方ないと思うけど)。
ただ監督の意図はとてもよく分かる。戦場での命は紙のように薄っぺらで軽いだけど、その夥しい死の数だけ人生があって、愛する人たちがいる。その重さには敵も味方も違いがない。戦後20年足らずでこういう見方の映画を撮ったこと、そして後の戦争映画名作スピルバーグ『プライベート・ライアン』、イーストウッド『硫黄島の手紙』に少なからぬ影響を与えていると思われ、その意味では価値ある1本。

アンドレ・カイヤット『裁きは終わりぬ』1950年,フランス,DVD
最近DVD化されていたことを知った。この映画はもっと評価されて良い。名作だと思う。愛人を安楽死させた女医の陪審員裁判を描く。人間はそれぞれの人生において培われる価値観からは自由にはなれないし、被告の決定的動機である「情」も本人以外100%理解することはできない。人間が人間を裁けるのか?、司法、陪審員制度の限界を見事に描ききる。監督が元弁護士だけあって問題関心が明確で、法廷もリアル。

イエジー・カヴァレロヴィッチ 『尼僧ヨアンナ』1960年,ポーランド,DVD
町田智浩『トラウマ映画館』で挙げられた1本。実際にあった17世紀ルーダンの悪魔憑き事件が元ネタ。修道院の尼僧たちに悪魔がとり憑き、グランディエ神父が悪魔の使いとして異端尋問され、処刑された事件。実際は、性的抑圧からくる集団ヒステリーじゃないかと言われてる。
この映画は、グラディエ神父が火あぶり処刑された後という設定。静謐、芸術的映像のなかに、よーく想像力を働かせないと分からない抑制された表現で、ヨアンナの抑圧された情欲を描いていく。悪魔払いにきた新しい神父もまた情欲を抑圧してるから、ヨアンナを愛しても、それを自分で認められない。男と女になれない愛の苦しみ。神父の驚愕の悪魔払いは、彼女への歪んだ愛の形なのだろう。彼女を救うには、自分がもっと救いようのない罪深いことを犯す悪魔になるしかなかった、永遠に。

ケン・ラッセル『肉体の悪魔』1971年,イギリス,ニコニコ動画
これもルーダン悪魔憑事件が元ネタ。こっちはグランディエ異端尋問を史実に沿って、監督の過激な芸術センスと想像力で描 き出す。内容は真面目で、ケン・ラッセルの傑作だと思う。ただ70年代初頭はハードコアポルノが流通解禁されたこともあって、必要以上に過激なエログロ映像を使う映画が登場しており、この映画もそのひとつ。そこだけで嫌悪されたり、変な関心を持たれたりしちゃうのが、この作品の不幸かもしんない。DVDにもなっていないし。
退廃と堕落の時代、ただただ腐った権力欲のためだけに無実の神父を異端尋問する、そのバカバカしくて、デタラメなやり口を徹底して見せつけられる。権力者によって扇動され、罪をなすりつけられ、人々に揶揄されるなか処刑されるグランディエ神父が、最後はキリストの処刑と重なってきたよ。無料動画で鑑賞。以前から気になってた映画なので見ることができたのはラッキーだった。見たい人は削除される前に、覚悟して見るべし。

リンゼイ・アンダーソン『八月の鯨』1987年,アメリカ,DVD
夏の別荘での老姉妹の1日を描く。よくよく考えると、たった1日の間に衝突があり、友人と別れたり、劇的な出来事がおこるけど、それらを波音にすべて包み込むように、やさしく静かに展開する。
無声映画期の大女優リリアン・ギッシュ(当時91才)、スクリーンのファーストレディとまで呼ばれた演技派女優ベティ・デイビス(79才)あっての映画。リリアンは薄幸で健気な少女役を得意とし、ベティは悪女役やアクの強い役を得意とした。彼女たちの演じた役がそのまま年取ったらこんな感じになるだろうなと思える。白髪で皺が増えてもリリアンの可憐さには惹かれるし、ベティのほんっとに憎らしくなるような演技もカッコイイ。
鯨は夢や希望の象徴。いろいろとあっても、老いた姉 妹は寄り添って、思い出の詰まった家で、残り少ない日々に希望をたくして生きていくのだろう。実は私はこの映画を公開当時にスクリーンで観ているが、彼女たちの年齢に近づいてもう一度観ると、老いの不安や孤独をひしひし感じてしまった。

フォローする