6月の映画鑑賞メモ

今月は2本だったけど、濃かったなー。

ジョシュア・オッペンハイマー『アクト・オブ・キリング』,2012年,イギリス・デンマーク・ノルウェー,アテリオ映像館
ドキュメンタリー。20年以上前、原一男『ゆきゆきて神軍』(87年)を観た時に、これを越えるドキュメンタリーはもう出ないだろうと思ったけど、ゆきゆきて…と肩を並べるドキュメンタリー傑作だと思う。
1965年共産党を支持基盤とするスカルノが失脚し、軍部右派に支持されたスハルトが政権を握ると、共産主義者、華僑の大虐殺がはじまった。犠牲者は100万人以上。この時、この虐殺の中心的役割を担ったのはプレマン(freemanが語源らしいが、一言で言うとヤクザ)や民兵。国軍は、共産主義と相反する思想のイスラム信者や豊かな華僑に不満を持つ者に武器を与え、殺害を扇動したらしい。
本作は、虐殺加害者たち企画・出演による虐殺再現映画を作る過程を追ったメイキングフィルムのような映画。過去を再現することは、自己を客観視するという視点を生みだす。自分の残虐行為や過ちと向き合わざるを得なくなるが、それでも彼らは最後の最後まで自分たちの行為を正当化しつづける。最初は虐殺行為を自慢げに語る彼らに唖然とした。しかし、自分のしでかしたことの重大さが分かっているからこそ、そこから眼を背けるため、自分を騙すため、ことさら自慢し、美化し、そして正当化しつづけているんだ…ということがしだいに見えてくる。虐殺に何か意義づけが欲しいのだ。虐殺の上に成立し、いまだ彼らを英雄視する腐った恐怖政治体制のなかでは、被害者や弱者は声を上げることができない。しかし、本作は加害者自らが、栄光の歴史をフィルムに刻もうとして、結果的には残虐行為、人間的弱さ・狡さをさらけ出すことになってしまった。ここが凄い。
私は虐殺や戦争に触れるとき、「狂気」という言葉を使うことを避けてきた。批判されるかもしれないけど、私は人間はここまでやっちゃうんだということ、そして誰しもその「種」は潜んでいることを自覚しておかねばならないと思っていて、「狂気」と言ってしまうと自分とは関わりのない他人事になってしまうから。この映画の殺人者たちも決して狂ってるわけじゃない。だから怖い。
この虐殺が行われた時、冷戦のまっただ中。資本主義国は何の批判もせず、それどころか資金、武器供与をしたとも言われている。虐殺加害者のバックには外国ブランドのきらびやかで大きな看板、虐殺加害者が歩き回るデパートにあふれんばかりの外国製商品が映し出される。監督は、資本主義国(含・日本)が間接的にこの虐殺を加担したこと、責任があることもしっかり伝えている。昔昔、遠い国の出来事ではないと。
首都圏ではほぼ上映が終了しており、二番館上映待ちかな。地方都市はこれから。不快だろうし、意見は人それぞれいろいろあると思うけど、見るべき映画。



イングマール・ベルイマン『秋のソナタ』,1978年,スウェーデン,ブルーレイ
国際的に活躍するピ アニストで家庭を犠牲にしてきた母親と、母に愛されたかった娘の愛憎劇。笑顔を取り繕ってはいるけど微妙に緊張をはらんでいる母娘。じわじわと相手への積 年の恨みや憎しみが不協和音をじわじわ奏ではじめ、修復不能な線を一挙に飛び越えていく。娘は母親のエゴイズムをじわじわとえぐり出し、逃げ場を奪っていく。一方で華やかな母親は娘の求める愛情の重さ、憎しみに追い詰められていく。ほぼ二人の会話劇だけど、最初から最後まで、ぴきーんとした緊張感が貫く。どどーっと疲労感が出るような一言一言が重すぎるセリフ、母イングリッド・バーグマン、娘リブ・ウルマンの神がかり的演技、アップの切り返しで彼女らのどんな些細な表情をも逃さないカメラ。子供の不幸は、愛されなかった子供ほど親の愛情を求めつづけてしまうこと。親の本音は「死ねば良いのに」なのに。
娘のセリフ>「母と娘、恐ろしい関係。憎み合い、いがみ合い、傷つけ合う。すべてが愛を理由になされる」。親子には、多かれ少なかれこういう関係が潜んでいると気づかされる。自分の心でくすぶっている何かを、的確な表現で射貫かれた感じ。ベルイマンは本当に人間の嫌な部分を徹底して見せるし、大抵、問題も解決しないんだけど、その「嫌な部分」が、何かしら自分の心にひっかかって共感できるものがあって、見終わった後に不思議とカタルシスを感じる。
牧師で厳格な父と長年確執があったベルイマン。一方で、子供を捨て、女優の道を選んだイングリット・バーグマン。映画と重なるな。イングリット・バーグマンの最期の出演映画であり、自分で最高の演技と評価した。
どうでもいいけど、オープニングの音楽はヘンデルのリコーダーソナタヘ長調HWV369。自分もこの曲をリコーダーで熱心に練習してた時期があり、いきなり 聞き慣れた曲が流れてきてびっくりしたわ。演奏者をクレジットで確認すると、フランス・ブリュッヘンだったよ。ブリュッヘンの演奏には温かみがあって良い。

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