8月の映画鑑賞メモ

イングマール・ベルイマン『叫びとささやき』,1972年,スウェーデン,DVD
10年前に買ったDVDを今頃観たのだが…orz。こんなに吸い込まれるような映画を観たのは何年振りだろう。傑作だと思う。私のベルイマンBest1。
3姉妹+メイドの室内劇。次女の病気と死をきっかけに、それぞれの仮面がはがされていく。長女は理性、次女は愛、三女は情欲、メイドは母性を注ぐ対象を求めている。誰もが満たされず、互いに満たされないものを求め合うのだが、求めるだけで与えようとはしないので、すべてが見事なまでにすれ違っていく。赤い壁、赤い床、赤いベッド。赤の空間は女のエゴイズムが淀んでいるようで息苦しい。赤い家のなかで女たちの心の叫びとささやきがすれ違い、それらは次女の死、赤い家からの脱出によって「沈黙へと帰」す。人間は結局はエゴイズムの塊で、永遠に解り合えない、救いもないと言うことか。
(おまけ) 
あるシーンで別の監督とビビビビッっと繋がり、目からうろこが落ちた。長女が夫とのSexを嫌悪するあまり自分の性器をガラスの破片で傷つけて生理を装うシーンがある。これをパクった?と思われるのが、ミヒャエル・ハネケ『ピアニスト』。こっちは、オールドミスが自分がまだ女であることをアピールするためにやるのだが。
そのシーンをみた瞬間、”あ、ハネケの映画はベルイマンに通じるものがある…”と思った。ベルイマンには神の不在が根底にあり、人間のエゴイズム、それから生まれる悲劇が冷ややかなトーンで描かれる。ハネケの映画は、希望なんか持つだけ無駄、俺様が救いをみんな打ち砕いてやるぜ!みたいなえげつなさ、意地の悪さがあって、何でこんな絶望的な映画ばっかり撮るのだろうとずっと思ってたけど、それらは神の不在、いやもっと積極的な神の真っ向否定なのかもしれない、だったらあの絶望は理解できると、やっと分かってきたよ。

岡本喜八『日本のいちばん長い日』,1967年,日本,DVD
1945年8月15日正午の玉音放送までの24時間を、宮城事件(陸軍将校が終戦を阻止しようとして起こしたクーデター未遂事件)を軸に描く。原作は半藤一利。取材と関係者からの証言を基にしたノンフィクション。1941年12月開戦の時から、資源力、工業生産力から見て日本の敗北は明白だったと思う。しかし、日本、特に陸軍はこの現実を受け入れられず、無謀な戦いを続け、多くの命を犠牲にした。太平洋戦争の関係機関、関係者の利害が24時間に凝縮されたようなドラマ。原作者の半藤一利が、戦争をはじめるのは簡単だけど、終わらせるのは大変、この一言に尽きるとインタビューに答えていたが、本当にそうだなと思った。
監督岡本喜八、脚本は橋本忍。橋本忍はどっちかっていうと抑制的で、論理的な脚本を書く人で、岡本喜八はアクションを得意とする。できる限り史実に即し、ナレーションを多く入れるなどドキュメンタリー的な手法も入れつつも、やっぱり岡本喜八監督は見せ場、盛り上げ方をよく分かってる人で、細かいカット割り、クロスカットの多用、惨殺・切腹シーンの派手な演出など、スピーディで手に汗握る展開になっている。2時間半、あっという間。俳優は三船敏郎、笠智衆、志村喬、宮口精二、山村聡などオールスターキャスト。見応え十分。

ノーマン・ジュイソン『夜の大捜査線』,1967年、アメリカ,wowow録画。
黒人差別が残る南部の田舎町で、フィラデルフィアの黒人エリート刑事ヴァージルは、殺人事件の捜査を手伝うことになる。ヴァージルが対峙しなければならなかったのは、殺人犯はでなく、偏見だらけの白人警官や町の人々だった。差別が体臭のように染みこんでいて、彼が有能でも、差別が消えるわけではない。殺人犯検挙は村にとって有益なことなのに、差別による非協力、偏見が捜査を阻む理不尽さ。まだ公民権運動がくすぶっていた時期、ヴァージルの毅然とした態度、侮辱するヤツは白人ブルジョアでも容赦なく殴るシーンは衝撃だったのではないかと思う。原題は『In The Heat of The Nigt』。熱帯夜の重苦しさが、ヴァージルの閉塞感と重なる。
威張ってるだけの無能な田舎警察R・スタイガー、黒人刑事シドニー・ポワチエの名優コンビ。R・スタイガーが本作でアカデミー賞主演男優賞を獲得。二人とも肩を並べる名演だけど、ラストのカットで、オスカーの女神がR・スタイガーにほほえんだような気がするな。差別意識がなくなったわけはないが、距離感が微妙に変化したことを表すR・スタイガーの演技はとても印象的。
私、この監督の作品を結構見てる。他には『ジーザス・クライスト・スーパースター』、『屋根の上のヴァイオリン弾き』、『華麗なる賭』、『月の輝く夜に』など。このぐらい見ると、大抵はカメラワーク・カット割り、テーマなど作家性が見えてくるものだけど、未だにコレと言った特徴が掴めない。変幻自在。100点満点大傑作はなくても、ミュージカル、娯楽、社会派、恋愛、何を撮っても80-90点レベルの秀作をきっちり仕上げられる職人監督なのかも。

クリス・バック&ジェニファー・リー『アナと雪の女王』,2014,アメリカ,団地の夏祭り映画上映会。
ジェットコースタームービーだな、これは。ストーリーは単純、展開がスピーディ、深刻になりすぎずユーモアでところどころ笑わせ、次から次へと歌と音楽、絵もきれい。小さい子供でも飽きずに楽しめる。アナとエルサは、これまでのお姫様とは違って、行動力がある。幸せも、白馬の王子さまじゃなくて、過ちも犯しながら、自分で道を切り開いていった先にあった。ディズニー映画も時代とともに女性像がだいぶ変わってきたという印象。しかし内容がペラい。アナとエルサの葛藤、解決プロセスもまた、陳腐なセリフでスピーディに展開するから、テーマである「真実の愛」(自己犠牲)が心にぜんぜん響かない。子供の頃に見た旧ソ連で作られた『雪の女王』をもう一度見たくなったよ。

アラン・ガニョル&ジャン=ルー・フェリシオリ『パリ猫ディノの夜』,2010,フランス,DVD
アニメ。昼は女の子の飼い猫、夜は怪盗の相棒、二つの顔を持つ猫 ディノ。フランスって、アニメを作ってもフランス映画になっちゃうんだね。物語は分かりやすい勧善懲悪だけど、猫のミステリアスさ、夜のパリの屋根をしなやかに駆けめぐる怪盗とか、スリリングな音楽とか、ジブリやディズニーにはないデンジャラスな雰囲気が魅力。最高にクールなアニメ。もちろんお子様OKな映画だけど、DVDは吹き替えなし・字幕のみなので、小さい子供が見るのはちょっと難しいかも。

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