2017年後半映画メモ(4)

アラン・ドロン特集だよ

アラン・ドロン…絶世の美男子だけど、意外にも男性ファンが多い。彼は暗さとか、冷たさとか、卑しさとか、孤独とか、負のオーラを後光のように出していて、そういうオーラがミーハー女子を威圧し、男が理想とするダンディズムを醸し出しているような気がする。また女子ウケするような映画にもあんまり出てないのよね。

ジャン=ピエール・メルヴィル『サムライ』,1967年,フランス,DVD

孤高の殺し屋ジェフ・コステロ。暗殺現場を目撃されたことで、警察にも依頼人にも追われることに…。『サムライ』は原題。
アラン・ドロンがとにかくカッコいい映画殺風景な部屋がカッコいい、そんなところで小鳥を飼っているのがカッコいい、殺し屋定番のトレンチコートがカッコいい、帽子のかぶり方がカッコいい、鍵の束がカッコいい、タバコの吸い方がカッコいい、歩き方がカッコいい…。そして、ラストシーンの拳銃が最高にカッコいい(なぜカッコいいかは見てください)。と、まぁメルヴィルは男の美学をこれでもかっーと、ドロンに詰め込んでおります。殺し屋ドロンのカッコよさを伝えるためには、ただの歩くシーンですら延々とカメラが回るのに、ストーリー展開に重要なところは短い数カットですませちゃったりします(笑)。男のカッコよさだけで1本の映画になるのもすごいけど、そんな役ができる俳優も古今東西アラン・ドロンただひとりのような気がする。
あまりにカッコいいので、この映画を真似した監督はたくさんいるけど、こんなところにまで影響力がっ! 片手にピストル~、心に花束~、唇に火の酒~、背中に人生を~ああ~ああ~ああああああ~。ジュリーの「サムライ」も、この映画からインスピレーションを得たみたいっすよ。


ジョセフ・ロージー『パリの灯は遠く』,1976年,フランス/イタリア,DVD

ドイツ占領下のフランス。美術商ロベール・クラインは、ユダヤ人から美術品を安く買いたたいて儲けていた。ある日、郵便物から同姓同名のユダヤ人と間違えられていることを知り、身の潔白を証明するためユダヤ人クラインを探し始める。折しも、ヴィシー政権はユダヤ人大量検挙を準備していた…。
1942年のヴェロドローム・ディヴェール大量検挙事件がモチーフ。ヴィシー政権が大規模なユダヤ人狩りを計画実行し、約1万3千人ものフランス在住ユダヤ人をアウシュビッツ等の収容所へ送り込んだ事件(ヴェロドローム・ディヴェールは競輪場の名前だけど、その理由は映画を見るとよく分かるよ)。
まず、1970年代に、フランス政府が90年代半ばまで否定しつづけたこの歴史的汚点事件を、ほぼ再現するかのようなリアルさで描いたことがすごい。そこに、クラインがユダヤ人クラインを探すというサスペンスフルなストーリーを絡ませて、観客を歴史舞台に引きずり込み、クラインが差別する側から差別される側へとあっという間に陥れられることで、明日は我が身じゃないけど、どの時代だってこういう理不尽な悲劇は決して他人事ではないこと、差別がいかに無意味で不毛かということまで考えさせる。冷静に判断したらやめときゃいいのに、クラインがもう一人の自分探しをやめられないというのは人間の本能なのでしょう…運命は皮肉。
私が最初に見たジョセフ・ロージー&アラン・ドロン映画は『暗殺者のメロディ』(’72)だった。ドロンの演技は良いのですが、これがまぁ退屈な映画で(笑)。正直、『パリの灯は遠く』も期待してなかったのですが、一瞬たりとも退屈しなかったし、反ナチ映画としても、サスペンスとしてもよく出来た映画だと思います。

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