2018年Best7映画~『恐怖の報酬』

アンリ=ジョルジュ・クルーゾー 『恐怖の報酬』

1953年,フランス・イタリア,Blu-ray

南米、ワケあり者が流れ着く掃き溜めのような村。マリオたちは、掃き溜めから脱出する金を得るため、500㎞先の油田火災を消すためのニトログリセリンをトラックで運ぶという命がけの仕事を請け負う。主演イブ・モンタン。

名作のなかの名作。一滴で爆発するニトログリセリンをボロいトラックに大量に積んで悪路を突き進む。凸凹道なんて序の口、断崖絶壁の切り返し、落石、石油のぬかるみ…。 俳優も命を張った危険な撮影に挑んでいるし、登場人物の一挙手一投足すべてが死に繋がることを想起させるクルーゾーの恐怖の演出も天才的で、こっちの命が縮むわ…(°°;)って感じ。
もっとすごいのは、この手に汗握る展開と同時に、極限の恐怖のなかで顕わになる人間の本性までどっぷりと見せてくれるところ。エゴイズムや狂気や、仲間意識なんかが絡み合ってはほつれていくような骨太な人間ドラマにも釘付け。
前半、1時間くらいかけて、登場人物の人間関係がかったるーい感じで描かれる。うだるような暑さ、仕事なし、金なし、国に帰りたくても帰れない、パリの地下鉄の切符を後生大事に握りしめ、無為に時間だけが過ぎていく絶望の日々。この八方ふさがりの男たちのダラダラした描写があるからこそ、後半の一発逆転に賭ける狂気の沙汰も、極限下での人間の変わりようも一段と引き立ってくる(前半が退屈と評価する人もいるけど、ここがなかったら面白さ半減だと思うんだけどなぁ…。)
ただ、ラストだけはちょっと不満。そこまでの演出が神業級だっただけに、急に手抜き感が… (;゚⊿゚) 。だって、ずーっと一瞬先は闇だったのに、最後だけは予想通りに終わっちゃうんだもん。 逆にいちばん印象に残ったシーンは、タバコの葉がふぁさっ~。見てない人には意味不明ですね(^^;。何の変哲もないカットですが、一瞬にして緩みが緊迫に変わるこのカットには思わず息を呑んでしまったよ。


補足情報

本作は、1977年にウィリアム・フリードキン監督、ロイ・シャイダー主演でリメイクされた。アメリカで興行的に失敗したため、日本はじめ他の国では30分もカットされた短縮版での公開となった。当然、クルーゾー版は超えられなかったね…という評価に。しかし、昨年末に、カットされた部分を復活させた完全オリジナル版が劇場公開されると、評価は一転し、評論家たちが絶賛。私も見たかったけど、気が付いた時には劇場公開はすでに終了ー(T-T)。DVDが出るといいなぁ。
リメイク版の予告も埋め込んでおきますね。

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